新設組織を軌道に乗せよ
- 澤拓磨 TS&Co.代表取締役 兼 最高経営責任者(CEO)
- 4月18日
- 読了時間: 8分
更新日:4月21日
概要
企業の組織新設背景と新任リーダーへの期待は様々だが、いずれの事例においても、新設組織の新任リーダーが対峙することとなる課題は、属す業界や当初活用可能な経営資本の質量等といった前提を問わず似通っている
新設組織の新任リーダーが対峙するよくある課題と解決策のうち、特に重要なのは「どうすれば、はじめの1ヵ月で結果を出せるか?」、「組織メンバーをどのような構成にすべきか?」、「はじめの一歩をどこに踏み出すべきか?」、「組織メンバーをどのように評価し入れ替えるべきか?」、「後継者を誰にし、どのように短期間で育成するか?」の5つ
はじめの1ヵ月で結果を出し、組織全体や組織メンバーからの信用・信頼を勝ち取り、組織メンバーのモチベーションを最大限引き出すことが最重要
組織新設背景と新任リーダーへの期待
これまで、経営変革執行、経営変革コンサルティングサービスを提供するTS&Co.では、顧客の新設組織を軌道に乗せるまでの支援を数多く経験してきた。
そこで本論考では、企業の頻出課題である「新設組織を軌道に乗せる方法」について、経験則を紹介したい。
まずは、TS&Co.が過去支援させて頂いた事例を紹介しよう。
事例1(経営企画室):当社はこれまで、単一事業、且つ、大口顧客に依存した経営を行ってきた。しかしながら、当該大口顧客に今後も継続的に、競合ではなく当社を選んで頂ける確証はない。従って、既存事業の顧客に対する提供価値を見直すと共に、新規事業の可能性も模索したい。ついては、上記役割を担う社長直下の組織として、経営企画室を新設する。新任リーダーはAさんにお願いしたい。1年以内に、0から組織を作り、既存事業の顧客に対する提供価値を見直すと共に新規事業の可能性を固めてほしい。さて、何から取り組めば良いだろうか?
事例2(グループ経営企画室):当社のコア事業が属す業界は今、大規模な業界再編期を迎えている。そんな中競合各社は、経営統合、市場シェア上位企業の子会社化、独立・自力経営と各社各様の方向へ経営の舵を切り始めている。かかる状況下、当社としては独立・自力経営を基本方針とし、この難局を乗り越えていきたい。ついては、改めて、中長期的な業界の未来像を明らかにした上で最適な戦略を立案し、グループ全体として危機感を持ちながら、戦略を実行していく先導役としてグループ経営企画を新設する。新任リーダーはBさんにお願いしたい。目先のミッションは、期末(半年後)の取締役会までに中期経営計画を策定し、社外取締役含めた取締役会からの承認を得て資本市場に開示すること。その後、勢いある社内の若手メンバーを率いて組織を作り、中期経営計画の実現を先導してほしい。さて、何から取り組めば良いだろうか?
事例3(新規事業開発室):当社は創業事業及びその周辺事業を核に新規上場を果たすまでに成長してきた。上場を機に、今後は更なる事業領域にも挑戦し、飛躍的な成長を実現したい。ついては、グループの次期中核事業を創出する役割を担う社長直下の組織として、新規事業開発室を新設する。新任リーダーはCさんにお願いしたい。1年以内に、0から組織を作り、3つの領域に絞り3つの新規事業を同時に開始してほしい。しかしながら、Cさんは創業事業での輝かしい実績はあるが、新規事業開発の経験はない。さて、何から取り組めば良いだろうか?
いずれの事例においても、新設組織の新任リーダーが対峙することとなる課題は、属す業界や当初活用可能な経営資本の質量等といった前提を問わず似通っていた。
次に、新設組織の新任リーダーが対峙することとなる、よくある課題と解決策について、TS&Co.の考えを紹介したい。
新設組織の新任リーダーが対峙するよくある課題と解決策
では、新設組織の新任リーダーが対峙することとなる、よくある課題と解決策を紹介しよう。
どうすれば、はじめの1ヵ月で結果を出せるか?
はじめの1ヵ月間、焦って誤った方向へ進むことを避けたいという思いから、多くの新任リーダーは方向性を定めるための情報収集や組織の初期メンバーとの関係性構築といった短期的には結果に繋がらないことに時間を使ってしまう。
しかしながら、著者の経験上、はじめの1ヵ月こそが、新設組織を軌道に乗せられるか否かを決める勝負所だと考えている。この期間に結果を出すことができれば、組織全体や組織メンバーからの信用・信頼を勝ち取り、組織メンバーのモチベーションを最大限引き出すことができ、その後の活動の成功確度が高まる。
では、どうすればはじめの1ヵ月で結果を出せるか?まず前提として、新任リーダーがこの段階で出すべき結果は、新設組織に与えられた最終結果ではない。この段階で出すべき結果は、経営陣や組織メンバーからみて新設組織は初動が早く勢いがあり、この未来(さき)上手くいきそうだと思わせることだ。そのために、新任リーダーをはじめとする組織メンバーは、1ヵ月にわたり考え、検証し尽くした戦略仮説を作り上げる。そして、然るべき場にて、経営陣や組織メンバーへ報告・共有し、結果を出す(経営陣や組織メンバーからみて新設組織は初動が早く勢いがあり、この未来(さき)上手くいきそうだと思わせる)ことが重要だ。
組織メンバーをどのような構成にすべきか?
多くの新任リーダーは、新設組織を社内メンバーだけで軌道に乗せられるかに対し課題意識を持っている。中長期的な業務運営主体や金銭的コストを鑑みれば、社内メンバーだけで軌道に乗せることが理想的だろう。
しかしながら、多くの場合、新設組織が挑むこととなるのは組織全体として未経験、あるいは、経験の浅い業務領域であり理想論ではないかという思いが頭をよぎることとなる。
では、組織メンバーをどのような構成にすべきだろうか?著者が過去経験した成功事例を紹介しよう。
事例1(有期限内での結果導出を優先):思い切って、初期においては新任リーダー以外を外部のプロフェッショナル人材で構成し、ある程度軌道に乗ったタイミングで社内人材を新設組織に異動させた、
事例2(組織文化情勢を優先):新任リーダー1名、社内メンバー5名、外部プロフェッショナル1名の計7名で新設組織を運営。新設組織に求められる業務領域に不慣れなメンバーで構成された組織のため、軌道に乗るまでに時間が必要ではあったが、軌道に乗った後には、初期メンバーが作り上げた組織文化に基づき円滑に業務が遂行される組織となった
はじめの一歩をどこに踏み出すべきか?
新設組織を軌道に乗せることに限らず、何か新しいことを開始しようとする多くの新任リーダーは、はじめの一歩をどこに踏み出すべきかに対し課題意識を持っている。
この課題は、一般的な戦略思考のプロセスを経ることで解決できる。詳細は、以下の記事を参照されたい。
組織メンバーをどのように評価し入れ替えるべきか?
新設組織は必ず軌道に乗る訳ではなく、組織の初期メンバーも必ずしも新設組織メンバーとしてフィットする訳ではない。従って、多くの新任リーダーは、組織メンバーをどのように評価し入れ替えるべきかに対し課題意識を持っている。
評価については、後述する入れ替え対象とならない限りは、新設組織の全てのメンバーに対し最終結果を実現できたか否かでのみ評価する。そうでなければ、少なくとも能動的に新設組織に参加したいというメンバーがいなくなってしまうためだ。
メンバーの入れ替えについては、新任リーダーに人事権を付与し、組織の方向性に合わない非協力的な人材は早期に異動して頂くといった一定の緊張感を持たせることが有効だ。規律ある組織でなければ、0から組織全体として未経験、あるいは、経験の浅い業務領域を切り拓き、最終結果を実現することは難しい。
後継者を誰にし、どのように短期間で育成するか?
新設組織の新任リーダーに抜擢されるような人材は、多くの場合、新設組織に長期にわたってとどまることはない。そうした人材は、組織全体でみても希少な人材であり、2・3年もすると新たな役割を期待されることが多い。
従って、多くの新任リーダーは、就任直後から後継者を誰にし、どのように短期間で育成するかに対し課題意識を持っている。
では、後継者を誰にし、どのように短期間で育成すれば良いのだろうか?
後継者の選定については、新任リーダー栄転後2・3年後までにおいて新設組織が対峙するであろう課題の本質を見極め、当該課題の解決力が最も高いと推察される人材を選ぶ必要がある。現時点の課題解決力が高い人材を選ぶ訳ではない点に注意が必要だ。
当該人材には、新設組織が軌道に乗るまでの間、新任リーダーの右腕・左腕としての役割を期待し、重要な役割を担って頂きながら実務ベースで育成していくのが良い。
2025年4月現在、新年度を機に、まさに「新設組織を軌道に乗せよ」というミッションを頂戴した新任リーダーが読者の中にもいらっしゃるだろう。
そうした読者がミッション実現に向け前進される際、本論考で述べた課題と解決策をご参考にして頂ければ幸いである。
また、組織メンバー構成に外部プロフェッショナルの起用を検討されている場合は、是非TS&Co.にお声がけ頂きたい。
著者
澤 拓磨(さわ たくま)
TS&Co.グループホールディングス株式会社 代表取締役 創業者CEO
TS&Co.株式会社 代表取締役
経営変革プロフェッショナル
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