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新規事業戦略

  • 澤拓磨 TS&Co.代表取締役 兼 最高経営責任者(CEO)
  • 4月14日
  • 読了時間: 10分

更新日:5 日前




概要

  • 企業経営における数ある戦略オプションの1つ

  • 新規事業戦略の価値は、自社にこれまで存在しなかった事業を創出することで新たな定量・定性パフォーマンス及び評価のされ方を得られる、ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を開拓できる、自社にとって新たな強みを獲得できる、自社に眠る人的資本の可能性を解放できること

  • 新規事業戦略の特徴は、初期投資額の回収や業績貢献までに短中期的な時間が必要となる、そもそも自社に新規事業領域を経営するために必要なケイパビリティが足りない、事業計画の予見精度が低い、付与される経営資本が少なく持たざる者としての経営戦略立案・実行が求められる、集客の仕組みや顧客需要を満たす製品・サービスを新しく創出しなければならない、事業進捗のモニタリング機能と仮説検証サイクルが確立されていない、数ある戦略オプションの中でもハイリスクな戦略であり、計画段階でハイリターンを見込める新規事業案でなければ、そもそも事業開始にも至らないこと

  • 新規事業戦略のプロセスは、「1.経営目標を実現するための新規事業への期待と撤退基準を特定する」、「2.ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を選定する」、「3.新規参入事業領域における競争戦略及びモニタリング機能を立案・構築する」、「4.競争戦略の実行。事業進捗をモニタリングし仮説検証サイクルを高速回転させる」、「5.結果(新規事業への期待)の実現」を経る。特に、新規事業への期待についてCEOをはじめとする経営陣と共通認識を得ること、実行段階において仮説検証サイクルを高速回転させる意識が非常に重要

  • 新規事業戦略のよくある失敗は、「1.企画の確からしさに拘りすぎ事業機会を逃す」、「2.自社を過大評価してしまい新事業領域で鼻っ柱を折られる」、「3.集客の仕組み構築や顧客需要の洞察(インサイト)が発見されていないにも関わらず、多額の先行投資・固定費増加をし現金枯渇」、「4.圧勝できていないにも関わらず事業責任者が飽きてしまい中途半端な事業で終わる。最悪の場合、撤退も」、「5.事業経験のない外部の新規事業コンサルタントを起用し、新規事業が企画倒れ・予算消化に終わる」の5つ

  • 新規事業戦略は、企業経営の有史以来、時空を超えて世界中の企業が挑んできた戦略オプションであり、読者においても例外ではないだろう。読者が新規事業戦略に挑まれる際、本論考で述べた新規事業戦略の価値と特徴、プロセスと要諦、よくある失敗と防止法が必ずやお役立て頂けると思料している




戦略オプションとしての新規事業戦略の価値と特徴


新規事業戦略は、企業経営における数ある戦略オプションの1つだ。

はじめに、そもそも新規事業戦略とは企業経営においてどのような価値を持ち、どのような特徴を持つ戦略なのかを明らかにしたい。


結論から述べると、TS&Co.では、新規事業戦略の価値と特徴を以下の通り考えている。


価値


  • 自社にこれまで存在しなかった事業を創出することで、新たな定量・定性パフォーマンス及び評価のされ方を得られる

  • ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を開拓できる

  • 自社にとって新たな強み(ポジショニング、特許等の知的資本、新規参入産業特有の希少なインサイダー情報等の情報資本、育成された人的資本、工場等の物的資本等)を獲得できる

  • 自社に眠る人的資本の可能性を解放できる


特徴

  • 初期投資額の回収や業績貢献までに短中期的な時間が必要となる

  • そもそも、自社に新規事業領域を経営するために必要なケイパビリティ(経営資本と実行力)が足りない

  • 事業計画の予見精度が低い

  • 付与される経営資本が少なく、持たざる者としての経営戦略立案・実行が求められる

  • 集客の仕組みや顧客需要を満たす製品・サービスを新しく創出しなければならない

  • 事業進捗のモニタリング機能と仮説検証サイクルが確立されていない

  • 数ある戦略オプションの中でもハイリスクな戦略であり、計画段階でハイリターンを見込める新規事業案でなければ、そもそも事業開始にも至らない




新規事業戦略のプロセスと要諦


新規事業戦略の価値と特徴をご理解頂いたうえで、次に、新規事業戦略のプロセスと要諦について紹介したい。


1.経営目標を実現するための新規事業への期待と撤退基準を特定する

新規事業戦略は戦略オプションの1つであり、戦略オプションであるが故に、理想(経営目標)次第で求められる新規事業戦略は異なる。従って、理想(経営目標)と現実とのギャップより新規事業戦略が解決すべき問題(期待)を特定することが、新規事業戦略の出発点となる。

同時に、実行段階において問題(期待)を解決できない場合も想定し、一定の基準に抵触した場合は問題(期待)を解決できないと判断する際の基準となる撤退基準も予め特定することで、規律ある新規事業戦略を実現する。

この段階では特に、新規事業への期待について、CEOをはじめとする経営陣と共通認識を得ることが非常に重要だ。


2.ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を選定する

新規事業戦略は、ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を開拓できる価値がある。

多くの企業では、ビジネスモデル・事業ポートフォリオ戦略共に自社ならではの戦略的方向性を指し示す枠組み・体系図等が存在するはずであり、当該枠組み・体系図等に照らし、ビジネスモデルと事業ポートフォリオ戦略を強化するために必要な事業領域を選定するのだ。

例えば、著者が経営するTS&Co.グループでは、経営変革業という自社ならではのビジネスモデルに基づき、事業ポートフォリオ戦略や新規事業領域を選定している。

この段階では特に、そもそも、自社ならではの戦略的方向性とは何かを改めて再考することが重要だ。


3.新規参入事業領域における競争戦略及びモニタリング機能を立案・構築する

事業領域を選定後に、当該事業領域における競争戦略を立案する。計画段階で立案した競争戦略のまま、新規事業への期待に応えられることはなく、実行段階における仮説検証が必須となる。

従って、同時に、予めモニタリング機能を構築しておく必要がある。

この段階では特に、KPIと行動レベルまで細分化された競争戦略が紐づけられた、正しく事業進捗をモニタリング可能な機能を構築することが重要だ。


4.競争戦略の実行。事業進捗をモニタリングし仮説検証サイクルを高速回転させる

計画段階で立案した競争戦略を集中的に実行していく。そして、定期的に事業進捗をモニタリングしながら仮説検証サイクルを高速回転させることが非常に重要だ。

この段階では特に、仮説検証サイクルを高速回転させる意識が非常に重要だ。繰り返しになるが、計画段階で立案した競争戦略のまま、新規事業への期待に応えられることはまずない。実行段階における仮説検証が事業の成否を決めると著者は考えている。


5.結果(新規事業への期待)の実現

1~4を経て、結果(新規事業への期待)の実現に至る。しかしながら、事業に終わりはない。従って、勝って兜の緒を締め、次の目標実現へと挑み続けるのだ。




新規事業戦略のよくある失敗と防止法


ハイリスクな戦略である新規事業戦略には失敗がつきものだ。

そこで、TS&Co.が過去の支援実績等を通じて対峙した、新規事業戦略のよくある失敗とその防止法について紹介したい。


1.企画の確からしさに拘りすぎ事業機会を逃す

新規事業戦略は、数ある戦略オプションの中でもハイリスクな戦略であり、計画段階でハイリターンを見込める新規事業案でなければ、そもそも事業開始にも至らない。

しかしながら、新規事業戦略の成否を分ける重要な要素として、タイミングを無視することはできない。この矛盾が新規事業戦略の失敗を招く。

大手企業を中心に多くの企業では、計画段階でハイリターンを見込める新規事業案を企画することを優先し、結果、タイミングを逸し事業機会を逃している。

この失敗を防止するには、小さく始め(少ない予算や人的資本等のみ初期投資)、事業成長の兆しが見えたタイミングで追加投資していく段階的な事業開発が有効だ。


2.自社を過大評価してしまい新事業領域で鼻っ柱を折られる

新規事業戦略は、自社に新規事業領域を経営するために必要なケイパビリティが足りない、事業計画の予見精度が低い、数ある戦略オプションの中でもハイリスクな戦略である等の特徴を持つ。

しかしながら、企業は時に、自社が既存事業の経営を通じて培った強みや経営ノウハウが新規事業においても十分に通用すると自社を過大評価してしまい、大きな損失を計上しなければならない窮地に陥っている。

この失敗を防止するには、「1.企画の確からしさに拘りすぎ事業機会を逃す」同様、小さく始め、事業成長の兆しが見えたタイミングで追加投資していく段階的な事業開発が有効だ。


3.集客の仕組み構築や顧客需要の洞察が発見されていないにも関わらず、多額の先行投資・固定費増加をし現金枯渇

新規事業は、既存事業とは異なり、集客の仕組みや顧客需要を満たす製品・サービスを新しく創出しなければならない。そのため、構造上、どうしても先行投資期間が生じてしまうのが一般的だ。

先行投資期間は、なかなか投資回収が進まず、現金を減らしながら、集客の仕組みや製品・サービスづくりを進めなければならない。

従って、企業は時に、集客の仕組み構築や顧客需要の洞察が発見されていないにも関わらず、多額の先行投資をしてしまったり、固定費を増加させてしまい、銀行口座にほぼ現金が残っていない状態に追い込まれてしまう場合がある。

この失敗を防止するには、予め明確な撤退基準を設定し、この基準に抵触するまでは、あくまで現行投資を元手に集客の仕組み構築や顧客需要の洞察を発見する期間と認識し集中することが有効だ。


4.圧勝できていないにも関わらず事業責任者が飽きてしまい中途半端な事業で終わる。最悪の場合、撤退も

多くの場合、新規事業をリードする事業責任者は、事業開始時の高いモチベーションを維持できず、ある程度事業が軌道に乗ってきた事業開始後3年程度で「飽き」との戦いを強いられる。

この問題に対し、企業は時に、事業責任者の入れ替えを試み、事業責任者に職務を継続させる。前者の場合は、新任事業責任者に前任事業責任者が持ち合わせていた事業開始時の高いモチベーションを期待できるが、後者の場合は、飽きとの戦いに屈した事業責任者率いる事業が中途半端な事業で終わる場合が多い。

この失敗を防止するには、事業責任者の入れ替えをはじめ、新たなインセンティブ制度の導入等が有効だ。


5.事業経験のない外部の新規事業コンサルタントを起用し、新規事業が企画倒れ・予算消化に終わる

ここまで述べた通り、新規事業戦略は、素晴らしい戦略や企画があれば成功する類の戦略ではない。

しかしながら、企業は時に、自らは事業創出経験のないコンサルティング会社で勤務した経験だけを持つ人材を外部の新規事業コンサルタントを起用してしまう。結果、新規事業が企画倒れ・予算消化に終わってしまう場合がある。

この失敗を防止するには、まずは社内の事業責任者を中心としたチームで新規事業戦略を完結させることを優先し、外部のコンサルタントを起用する場合は、コンサルティング会社での勤務経験を持つ人材ではなく事業創出及び突出した結果を実現した実績を持つ新規事業コンサルタントに絞り、起用することが有効だ。


新規事業戦略は、企業経営の有史以来、時空を超えて世界中の企業が挑んできた戦略オプションだ。読者においても例外ではないだろう。

読者が新規事業戦略に挑まれる際、本論考で述べた新規事業戦略の価値と特徴、プロセスと要諦、よくある失敗と防止法が必ずやお役に立てると思料している。



著者

澤 拓磨(さわ たくま)

TS&Co.グループホールディングス株式会社 代表取締役 創業者CEO

TS&Co.株式会社 代表取締役

経営変革プロフェッショナル


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