ビジネスDD(デュー・ディリジェンス)
- 澤拓磨 TS&Co.代表取締役 兼 最高経営責任者(CEO)
- 7月24日
- 読了時間: 5分
概要
ビジネスDDは、事業ポートフォリオ戦略の検討やM&A・企業提携を検討する際に買手・売手双方が業績構造、事業環境と構造、収益性、将来性、価値向上計画、理論売買価格、取引後のPMI・バリューアップ方針等を把握・決断するために行う事業監査
ビジネスDDの目的は、対象事業の業績構造、事業環境と構造、収益性、将来性、価値向上計画の把握を通じて、DD実施当事者の理論売買価格や取引後のPMI・バリューアップ方針等の決断に役立つインサイトを提供すること
ビジネスDDの目標は、1〜2ヶ月程度の有期限内で上記目的を実現すること
ビジネスDDの進め方は、①ビジネスDDのプロジェクト設計、②対象会社・事業の評価、③価値向上計画の策定と取引条件への示唆出し(売買価格や業務上の手当て)、④報告の4つのプロセスを経る
ビジネスDDの要諦は、①経営視点のビジネスDD、②他DDプロバイダー等ステークホルダー間の連携、③正しく優先順位づけしROI最大化の3つ。特に、ビジネスDDの目的を実現するためには、経営(結果を出し続ける行動)視点を持つことが重要
ビジネスDDの目的・目標・進め方
ビジネスDDは、事業ポートフォリオ戦略の検討やM&A・企業提携を検討する際に買手・売手双方が業績構造、事業環境と構造、収益性、将来性、価値向上計画、理論売買価格、取引後のPMI・バリューアップ方針等を把握・決断するために行う事業監査だ。
そのため事業会社の担当者からすると非日常業務にあたる場合が大半で、当社のような戦略コンサルティング・サービスを提供する外部のプロフェッショナルに、客観的で厳格な事業監査を期待し実務を依頼することとなる。
その際、外部のプロフェッショナルは豊富なビジネスDD経験より学習した汎用的で効果的なアプローチで実務を進めることとなるが、当事者となる買手・売手の協力なくして真に質の高いビジネスDDを実現することは難しい。
そこで本論考では、ビジネスDDの目的・目標・進め方といった概要及びビジネスDDの要諦を紹介したい。
ビジネスDDの目的
対象事業の業績構造、事業環境と構造、収益性、将来性、価値向上計画の把握を通じて、DD実施当事者の理論売買価格や取引後のPMI・バリューアップ方針等の決断に役立つインサイトを提供すること
ビジネスDDの目標
1〜2ヶ月程度の有期限内で上記目的を実現すること
ビジネスDDの進め方
1.ビジネスDDのプロジェクト設計
はじめに、ビジネスDDの目的、目標(スケジュールと監査範囲)、体制、実務の進め方等について取り決める。
ビジネスDDは、監査対象会社・事業の特色に応じて、実施当事者が注視すべきポイントは異なる。
従って、監査対象会社・事業の特色をよく理解した上でプロジェクト設計を行いたい。
プロジェクト設計の稚拙が、ビジネスDDの質を左右すると共に、事業ポートフォリオ戦略やM&A・企業提携の成否を左右すると言っても過言では無い。
2.対象会社・事業の評価
①業績評価(財務三表、財務指標等)、②事業環境と構造評価(市場規模・予測、競争環境と対象会社・事業の競争優位性、オペレーション、提携戦略の可能性等)を行い、スタンドアローンバリュー算出の基礎となる修正事業計画を策定する。
また、価値向上計画の策定や取引条件への示唆出しを行うための基礎情報ともなる。
3.価値向上計画の策定と取引条件への示唆出し(売買価格や業務上の手当て)
もし買手が対象会社・事業の所有者になったと仮定した場合に想定される価値向上策及びシナジー効果をリストアップし期待値を定量化する。また、当該価値向上策及びシナジー効果を享受するために契約段階で手当てしておきたいリスク要因を洗い出し、契約書に盛り込むべく示唆出しをする。
4.報告
過不足なく2・3で得た情報をビジネスDD報告書にまとめ、報告会等を開催しDD実施当事者に報告する。
ビジネスDDの実践においては、中間報告、最終報告等のマイルストーンを設け、DD実施当事者が特に検証したいと考える仮説に対し集中的に監査を進める方法が良いだろう。
以上がビジネスDDの目的・目標・進め方だ。次に、ビジネスDDの要諦について紹介しよう。
ビジネスDDの要諦
著者は、ビジネスDDの要諦は以下3つだと考えている。
1.経営視点のビジネスDD
ビジネスDDの目的は、最終的には、DD実施当事者の理論売買価格や取引後のPMI・バリューアップ方針等の決断に役立つインサイトを提供することにある。
従って、事業環境と構造を細かく分析してこの観点から事業監査を行うだけでは、ビジネスDDの目的を実現できない。
ビジネスDDの目的を実現するためには、経営(結果を出し続ける行動)視点を持つことが重要だ。経営視点で考えれば、事業環境と構造が明らかになっただけでは、対象会社・事業の収益性や将来性、価値向上策が見えてこず、理論売買価格や取引後のPMI・バリューアップ方針等の決断を下すことが難しいことに気づくだろう。
2.他DDプロバイダー等ステークホルダー間の連携
(ケース・バイ・ケースではあるが)DD実施当事者は、ビジネスDDに加え、財務・税務DD、法務DD、人事・組織DD、IT・システムDD、環境DD、バリュエーション(価値評価)等を同時に行う。
各DDは密接に関連しており、例えば、人事・組織DDやIT・システムDDで得られたポジティブ・ネガティブな情報次第で、ビジネスDDで検証すべき監査対象が変化する。また、ビジネスDDで得られたインサイトがバリュエーションに大きな影響を与えることは言うまでもない。
従って、ビジネスDD実施時は、常に他DDプロバイダー等ステークホルダー間の密な連携を取ることが重要だ。
3.正しく優先順位づけしROI最大化
ビジネスDDは有期限内で行われる。もし仮に、期限が存在せず気の済むまで監査を実施できるのであれば、監査対象に優先順位づけをせず考えうる必要項目の全てを順番に検証していけばよいが、こうしたケースはほぼ存在しない。
従って、有期限内で目的を実現すべく、監査対象を正しく優先順位づけしROI(時間対効果の側面が強い)を最大化したい。
もし読者が、事業ポートフォリオ戦略の検討にあたりビジネスDDに関与される場合やM&A・企業提携の当事者としてビジネスDDに関与される場合には、本論考を参考にされてみては如何だろうか。
著者
澤 拓磨(さわ たくま)
TS&Co.グループホールディングス株式会社 代表取締役 CEO創業者
経営変革プロフェッショナル
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