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サステナビリティ・ビジネス戦略

  • 澤拓磨 TS&Co.代表取締役 兼 最高経営責任者(CEO)
  • 4月5日
  • 読了時間: 12分

更新日:5 日前




概要

  • サステナビリティ・ビジネスとは、サステナビリティ(地球・地球システム・人類の持続可能性)を考慮した事業のこと

  • 今、世界の潮流を背景に、業界・地域等を問わず様々な企業において、サステナビリティ・ビジネス戦略は無視できないテーマとなっている。しかしながら、サステナビリティ・ビジネス戦略の立案・実行は、いまだ体系的に形式知化されていないのが実状

  • サステナビリティ・ビジネスの構想・事業化プロセスでは、通常のビジネスと異なる意思決定の考え方や戦略が求められる

  • サステナビリティ・ビジネスの要諦は、①中期・長期・超長期視点のビジョンから逆算し設計したマテリアリティの解決に寄与する自社ならではのアイデアに絞る、②サステナビリティ・ビジネスは定量・定性パフォーマンスへの貢献が両立した事業である、③特許取得やアライアンス戦略を前提とした「サステナビリティ・ビジネスならでは」の戦略を事前に想定し実行する、の3つ




サステナビリティ・ビジネスを取り巻く世界の潮流


そもそも、サステナビリティ・ビジネスがなぜ今求められているのか?

その理由として、サステナビリティ・ビジネスを取り巻く世界の潮流が背景にあるとTS&Co.は考えている。


公的機関からの要請

1970年代に持続可能な開発・発展の基本理念の萌芽が見られ、1992年の地球サミット、2000年のミレニアム開発目標(MDGs)、2005年の世界社会開発サミット、2015年の持続可能な開発目標(SDGs)とサステナビリティという言葉が世界的に浸透してきた。

現在、2015年に国連サミットにより採択された持続可能な開発目標(SDGs)をはじめ、国連グローバル・コンパクト、締約国会議(COP)、日本政府による2050年カーボンニュートラル宣言等を代表例とし、公的機関からの要請が高まっている。


消費市場・労働市場からの要請

例えば、スーパーに陳列されている各種商品のうち、環境に配慮した商品の売れ行きが好調となる等、消費市場からの要請が高まっている。

また、例えば、20代・30代の世代は、社会課題の解決への意識が驚くほど高く、サステナビリティ経営がなされているか否かで就職先を選ぶ等、労働市場からも要請を受けている。


サステナブル投資の進展

サステナブル投資とは、ESG等サステナビリティの観点から投じられる投資資金のことであり、2006年に国連が提唱した責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)をきっかけに本格的に普及した。

NPO法人・日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)の調査によると、2021年の機関投資家の運用総額に占めるサステナブル投資の比率は61.5%まで上昇している。サステナビリティ経営(サステナビリティを考慮した経営)がなされていない企業は、機関投資家のポートフォリオから外され、資本市場から必要資金を調達することが難しくなっている。

また、サステナビリティ開示基準の整備も進展している等、サステナブル投資の進展は著しい。


以上述べた世界の潮流を背景に、業界・地域等を問わず様々な企業において、サステナビリティ・ビジネスへの関心が高まっている。




サステナビリティ・ビジネスの構想・事業化プロセスと留意点


では、サステナビリティ・ビジネスはどのように構想・事業化していけばよいか?その際の留意点は何か?について、TS&Co.の考えを述べたい。

ここでは便宜的に、スタートアップ型の新規事業開発の考え方を参考に、ベンチャー・ファイナンスのステージに合わせ、顧客(日本を代表する大手企業の新規事業起案者及び評価・意思決定者を想定)におけるサステナビリティ・ビジネスの構想・事業化プロセスの概要と留意点を紹介したい。


プレシード:アイデア発案・ビジネスモデル構想、アイデア提案及び予算獲得

自身のアイデアに基づき、サステナビリティ・ビジネスを企画。そして、意思決定機関へのアイデア提案等を通じて予算獲得を目指す段階。留意点として、以下のような問いが挙げられる。


  • 全社の戦略的方向性に沿い、定められたマテリアリティ(持続的な企業価値最大化と世界の繫栄と幸せに貢献するために対処すべき重要課題)の解決に寄与する提案か?

  • ターゲット市場規模・想定事業計画等、ビジネスの定量インパクトが明示されているか?

  • 当該ビジネスが、何故自社にとって価値があるのかが明示されているか?(サステナビリティ・ビジネスは、通常のビジネス以上に、この点を丁寧に説明できなければ予算獲得は難しい)


シード・アーリー:プロジェクト準備、創業時の経営資本確保、組織新設・プロジェクト化

アイデアのプロジェクト化準備(内容によりグループ会社への相談等、社内調整が必要な場合あり)を経て、実際にプロジェクトとして計画を実行していく段階。留意点として、以下のような問いが挙げられる。


  • プロジェクト実行計画のブラッシュアップや社内調整・連携の事前準備は十分か?

  • プロジェクト実行計画を承認し、本当に経営資本(ヒト・カネ等)を配分すべきか?


ミドル・レイター:事業化・収益化

プロジェクト実行計画の継続的実行と結果導出、サステナビリティ・ビジネス固有のアライアンスを前提にした経営戦略(公的機関や研究開発機関との連携・社会起業家との連携・知財戦略等)を実行していく段階。留意点として、以下のような問いが挙げられる。


・プロジェクト実行計画を元に、十分なPDCAを回せているか?

・サステナビリティ・ビジネス固有のアライアンスを前提にした経営戦略を実行できているか?


エグジット:継続保有/事業開発・IPO・M&A、事例化

事業の定量・定性パフォーマンスを鑑み、戦略的な方向性を定める。また、事業構想・事業化に再現性を得ることや人的資本の育成を企図し、ここまでの構想・事業化プロセスを事例化し、知的財産化(ノウハウ・特許等)していく段階。留意点として、以下のような問いが挙げられる。


  • 原則、継続保有・事業開発ではあるものの、事業ポートフォリオ戦略及び「人材の発掘と育成」の観点から、IPOやM&Aも企図すべきか?

  • M&A(カーブアウト)を企図する場合、どのようなストラクチャーまで許容するか?


以上述べたように、サステナビリティ・ビジネスは、通常のビジネスと異なる意思決定の考え方や戦略が求められる点に、特に留意したい。




サステナビリティ・ビジネス事例


世界の潮流を背景に、業界・地域等を問わず様々な企業において関心が高まっているサステナビリティ・ビジネスだが、具体的にどのようなビジネスが存在するのか。

企業毎に異なるマテリアリティを背景に、自社との関連性に強弱が生じてしまうことを可能な限り避けるため、代表的なサステナビリティ指標に関連するビジネスを紹介すべく努めた。


「温室効果ガス(GHG)排出量」に関連するサステナビリティ・ビジネス

経済産業省所管、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の完全子会社である株式会社AIST-Solutionsが提供する排出原単位の提供サービス「AIST-IDEA」を紹介しよう。

同サービスは、環境影響の見える化手法であるLCA*やScope3**を実施する際に必要となる排出原単位を、網羅性、代表性、完全性、透明性を担保しながら提供する世界最大規模のインベントリデータベースだ。

特に網羅性は、日本国内のほぼ全ての事業における経済活動をカバーし、全データを「日本標準産業分類」「工業統計調査用商品分類」に基づいた分類コードで作成されている。

また、データは統計をベースに開発され、日本の平均的な製造方法やサービスのデータとなっており、代表性を確保している。


*ライフサイクルアセスメントの略。製品やサービスに必要な原料の採取から、製品が使用され、廃棄されるまでの全工程での環境負荷を定量的に表そうという考え方

**自社事業の活動に関連する他社のGHG排出量。サプライチェーン排出量とも呼ばれ、企業活動全体におけるGHG排出量の大半を占める場合あり


「ウェルビーイング」に関連するサステナビリティ・ビジネス

人材派遣業大手のパソナグループが提供する顧客企業向け健康経営支援サービスを紹介しよう。同社は、5つの切り口で、顧客企業の健康経営実現を支援している。


  • 従業員の健康管理サポート:企業に寄り添い支援する「伴走型サポート」。健康経営に取組む目的や課題を共に明確化。企業特性を踏まえ、最適な施策をご提案すると共に、その実行まで支援

  • 働くすべての人への充実した健康支援サービス:オンライン健康支援室。全国どこでもサポート。企業の健康管理、増進に関する多岐にわたる業務に、産業看護職(保健師・看護師)が担当者にマンパワーと知見を提供

  • 女性の健康サポートプログラム:Kira+sup(女性の健康サポートプログラム)及び働く女性の健康づくりに関する研修や産婦人科医等によるオンライン相談サービスを提供

  • 働く人々のメンタルヘルスケアをワンストップサポート:「はたらくに寄りそう」を理念とし、はたらく人の不安や悩みを解決。従業員サポート、職場マネジメントサポート、人事サポート、健康経営・職場改善サポートサービスを提供

  • 従業員と企業のウェルビーイング向上に貢献するオフィス空間の設計:自然と触れ合うと人間が本能的にやすらげるバイオフィリア理論に基づいた空間づくりを行う「COMORE BIZ」。ウェルビーイング、ワークエンゲージメント、集中力・生産性向上、リクルート効果を見込む


「廃棄物率」に関連するサステナビリティ・ビジネス

リユース市場で国内シェアNo.1を誇り、レンタルビデオショップ事業等を展開する、株式会社ゲオホールディングスの完全子会社である株式会社セカンドストリートの事例を紹介しよう。

同社は、全国850店舗以上の実店舗とオンラインストアで中古品の買取と販売を行うリユースショップだ。洋服・バッグ・靴等ファッションアイテムを中心に、家具・家電・生活雑貨まで幅広い商材を展開。リユースをライフスタイルの1つとして定着させるべく、2029年3月期までに1,000店舗を出店することを目標に出店拡大を企図されている。

同社は、自社の特徴として以下3点を掲げ、廃棄物率の削減に努めている。


  • 捨てない暮らしをあたりまえに(「使わなくなったけど、捨てるのはもったいない」という品物を一点から査定し買い取り)

  • ライフスタイルやニーズに合わせた多種多様な店舗展開

  • 2nd STREET Online


「製品リサイクル」に関連するサステナビリティ・ビジネス

国内で約900店舗を展開中のBOOKOFF(本・CD・DVD・ゲーム・トレカや携帯電話等の中古商品)を中心とするリサイクル事業群を展開するブックオフグループホールディングス株式会社の事例を紹介しよう。

ブックオフグループのリサイクル事業群は多岐にわたり、以下のような多様な業態を展開しつつ、製品リサイクル文化を牽引されている。


  • BOOKOFF(本・CD・DVD・ゲーム・トレカ・ホビー・携帯電話)

  • BOOKOFF PLUS(「BOOKOFF」+洋服・服飾雑貨等)

  • BOOKOFF SUPER BAZAAR(「BOOKOFF」+洋服・ブランド品・雑貨・スポーツ用品・食器等)

  • hugall(ブランド品、ジュエリーの他、骨董品、美術品等の高価格帯商材)

  • アイデクト(ジュエリー オーダー&リフォーム スペシャリティストア)




サステナビリティ・ビジネス戦略の3つの要諦


最後に、サステナビリティ・ビジネス戦略の3つの要諦を紹介したい。過去の支援実績で得た洞察(インサイト)を鑑み、以下の点が特に重要だとTS&Co.は考えている。


要諦1. 中期・長期・超長期視点のビジョンから逆算し設計したマテリアリティの解決に寄与する自社ならではのアイデアに絞る

サステナビリティ・ビジネスも通常のビジネス同様、自社の強みに代表される持ち味やらしさ・ならではを前提に構想していく。しかしながら、サステナビリティ・ビジネスの場合、自社の既存事業で培った競争優位性(違い)に加え、当該ビジネスが中期・長期・超長期視点のビジョンから逆算し設計したマテリアリティの解決に寄与するか?という視点が求められる。

そして、マテリアリティの中での自社ならではの優先順位に則り(定量・定性インパクトやその実現までの時間軸の観点から優先順位を決める。例えば、想定される定量・定性インパクトは同水準でも、短期で解決しうるものと長期で解決しうるものであれば前者の方が優先度が高い等)、サステナビリティ・ビジネスを絞り込むのだ。


要諦2. サステナビリティ・ビジネスは定量・定性パフォーマンスへの貢献が両立した事業

正しく構想されたサステナビリティ・ビジネスは、定量・定性パフォーマンスが両立しているはずである。なぜなら、正しく構想されたサステナビリティ・ビジネスは、通常のビジネス構想に「加え」、自社ならではの優先順位の高いマテリアリティ解決に寄与するか?という視点で構想されたビジネスであり、定量・定性パフォーマンスの両立が当然求められるためだ。

昨今、多くの企業でサステナビリティ専任部門が新設・運用され、サステナビリティという枕詞がつくが故に、サステナビリティ・ビジネスをサステナビリティ部門主導で評価するケースが見受けられる。そうした企業に対し、TS&Co.では、サステナビリティ・ビジネスとは定量・定性パフォーマンスが両立した事業であることを前提に、事業部門等と連携しながら正しく評価していくことを推奨している。


要諦3. 特許取得やアライアンス戦略を前提とした「サステナビリティ・ビジネスならでは」の戦略を事前に想定し実行する

サステナビリティ・ビジネスでは、自社ならではの優先順位の高いマテリアリティの解決に寄与すべく、特許取得(ビジネスモデル上重要なコア技術に関する特許を取得し、持続的な競争優位性(違い)とすることが狙い)や自社単独では実現しえないサプライチェーン形成を企図したアライアンス戦略等を前提とした、サステナビリティ・ビジネスはならではの戦略が求められることが多い。

例えば、著者が過去に支援させて頂いたサステナビリティ・ビジネス戦略の立案・実行を企図されていた企業では、この点を事前に想定し、弁理士ネットワークの構築や自社がこれまで既存事業の経営で接点を持たせて頂いていた協業先とのアライアンス可能性を整理し備えていた。そのため、当該備えに基づき、サステナビリティ・ビジネスの構想・事業化をスムーズに進めることができた。


今、業界・地域等を問わず様々な企業にとって、サステナビリティ・ビジネス戦略は無視できないテーマとなっている。

しかしながら、サステナビリティ・ビジネス戦略の立案・実行は、いまだ体系的に形式知化されていないのが実状だ。


TS&Co.は、これから、あるいは、既にサステナビリティ・ビジネス戦略の立案・実行に挑まれておる顧客の一助になれるよう、更なる探求を進めたいと考えている。



著者

澤 拓磨(さわ たくま)

TS&Co.グループホールディングス株式会社 代表取締役 創業者CEO

TS&Co.株式会社 代表取締役

経営変革プロフェッショナル


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